«ファイティング・スピリット»の抜粋、二項

私は世界で最も大きい三つの会社が合弁で太平洋沖に作ったオオガメ島という人工島に生まれた。いくつかの島からなっているオオガメ島は九州より大きく、二百万人ほどの住民がいた。
中学生の時から私には何かおかしなことが起きるようになった。毎夜怖い夢を見るようになったのだ。たとえば出口が全く見えない迷路を走っていたり、時には誰かを追いかけたり、また逆に人から逃げたり。まるで大切な宝物が眠る安全な場所を探していたかのように。
なかなかゴールを見つけられず無我夢中で走っている途中、迷路の行き止まりに当たって途方に暮れている時、命がけで戦おうと化け物がいる部屋の扉を開けようとする瞬間、そんなときに目を覚ますことが多かった。
こんな悪夢に耐えられなくなったある日解決策を考え始めた。

レミは軽く朝食を済ませて、本の続きを書くためパソコンの前に座った。カリナは近くの湖に泳ぎに行った。その湖の深さは未知で、好奇心のあるダイバーでさえも底まで潜れる者はいなかった。白い岸壁のかげで綺麗なエメラルド色に輝くその湖を皆は“青い湖”と呼んだ。その水はいつでもまるで氷のように冷たかった。泳いで気分爽快のカリナはレミの様子を見に行った。
「今日は泳がないの?」- カリナは濡れたタオルでレミの肩を叩こうとした。
「夜中に3回泳いだわ。」- モニターを見つめたままレミは答えた。
「何か変わった感じはしなかった?」- オグマザ先生(レミの苗字)はタオルを追い払って聞いた。
「えっと...」― カリナは一瞬考えた。
「確かに水が温かかった。普段はどんなに頑張っても5分しか泳げないのに今日は20分以上も泳げたから自分でも驚いていたの。何か起きたの?」
「うん、地震学者が島々の火山活動を観測したらしいわ。湖の水温はもう一週間も前から変わり始めているのよ。今まで気づかなかった?」
「ううん」― カリナはゆっくりと答えた。
「なにも...あなたほど敏感ではないからね。それって、どう思う?」
「さぁ、まだはっきりしたことが分かってないから何とも言えないわ。」
「どうしてそんな不安な時にわざわざ、教えを記すことにしたの?」
― カリナは執筆の進み具合を見ようとレミの背中からパソコンを覗いた。
「不安だからかも...そんな時だからこそ次世代のことを考えないと...」- レミは少し迷いながら答えた。
「編集はあなたに任せるわ。ハーモニーとかバランスが取れたテキストに生まれ変わるのを楽しみにしてるわ。」
「私の専門はアート(画家)よ!」- カリナは即座に言い返した。
「はいはい」- レミは笑った。
「執筆の手伝いを頼むと画家に、絵を描くのを頼むと作家になるのよね。私はなんて辛抱強いのかしら。」-レミはつぶやいた。
「それはね、私が可愛くて頭脳明晰だからよ。どうしてそんなこと言われなきゃいけないの...それより、オサマと何をするつもり?まさか、聖なる碧蛙(碧玉の蛙)を奪い取る気なの?」
「話しをそらさないで!編集は頼んだわよ!あと、オサマはあなたを喜ばせようと思って蛙を掛けることにしたのよ。で、奪い取るんじゃなくて正々堂々戦って勝ち取るのよ!」
「正々堂々とか言って、どうせあなたが勝つでしょ。」
「何を言ってるの?オサマは体重がほとんど私の倍よ。」
「その上あなたより彼はエネルギーの管理とか幻術も上手いとか言わなくて良いわよ。」
「そう、今回は幻術は使用禁止なのよ。だから私は練習のためにジュンの首が必要だったのよ。」-レミは答えた。
「ルールはもう決まったの?なんで、いちいち聞かないと教えてくれないのよ!」- カリナはいらだちを隠せない様子だった。
「細かいことまではまだ話し合ってないわ、また変わるかもしれないし。でもだいたいこんな感じ。まず第一段階は東京でコスプレの時、武器とコスチュームは何を着けてもよし。いつものように怪我をさせてはダメ。相手の体か服の中に隠している金庫の鍵2つを奪い取ってそれを先に副審に渡した方が勝ち。副審の名前は勝利まで非公開。」
「オサマはあなたから何が欲しいのかしら?」
「蛇の形をした刀の鞘(さや)。」
「あなたはそれでいいの?」
「勿論、だって彼が一瞬でも手に入れられるとでも思うの?」
「自意識過剰ね!」
「ご心配なく、自分の実力に自信があるだけよ、過大評価しているつもりはないわ。」
- レミは余計なお世話と言わんばかりに答えた。
電話がなった。カリナが受話器に跳び付いた。
「もしもし、あぁジュン!どうしたのてこんな早い時間に。―― あっ、そう?今すぐ?彼女はもう起きてるわ、って言うか眠ってもなかったわ。大丈夫よ。」- カリナは電話を切った。
レミはいぶかしげにカリナを見つめたが、何も聞かなかった。彼女には仕事が待っていた。日が昇り、日差しを浴びた屋根は金色に輝いていた。
*幻術は幻想の作り・管理の技です。
絵画: ヂューモン・アルチョム
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